≫ No.2



次の日。
学校の行きはたまに藤や島崎たち四人と合流することがあり、そのときは一緒に行くのだが今日は出会わずに到着してしまったので、フィアナの七夕の報告は昼休みに持ち越しとなった。
しゅんと落ち込んでいるフィアナを何とか元気付け、昼休みには例のごとく八人は屋上に集まっていた。
「あ、ユア。クロカちゃんっ」
授業が終わるのが一番遅かったフィアナと浩輔も屋上に着き、フィアナは二人の姿を見た途端に駆け出す。
「フィア、どうしたんだ?」
彼女の声に気づいたほかの六人が一斉にこちらを向いた中で、ユアはフィアナが嬉しそうな様子に首を傾げる。
「なんかうれしいことでもあった?」
女の子の表情の変化を見分けることに長けている藤はフィアナに笑いかけ、その理由を尋ねる。
「あのね、昨日ね笹に飾りつけしたのっ」
「…………笹に飾りつけ?」
意気込んで教える彼女の言葉に疑問を持ったのはクロカだ。ユアも何のことかわからずに混乱している様子だ。
クリスマスに飾りつけをするのはもみの木だが、笹に飾りつけとはいったい。
「今日はね、七夕の日なんだよ」
「たなばた?」
苦笑を浮かべて教えてくれた洋輔の言葉に聞いたことのない単語にさらに首を傾げるユアとクロカである。
その様子にさらに苦笑を濃くした。
やはりファイネルには七夕は無縁のものなのだ。
しかしそんな二人とは正反対に藤と島崎は思い出したように頷いている。
「そういえば今日だな、七夕」
「そっか、今日か。忘れてたな。てか、もう俺らには関係のない行事だしな」
そういって昔のことを思い出す藤の瞳が次第に遠くなっていく。幼稚園に行っていたときは毎年笹に飾りつけをして短冊に願い事を書き、そして織姫と彦星の話を聞かされた。
そっかそっかと納得している二人が気に入らなかったのか、ユアは藤の足を蹴り飛ばした。
「……っいて」
「だからたなばたって何なんだよっ」
さっきから二人で納得しやがって、と藤の声も無視し、ユアは彼を睨みつける。
「子どもの観点で言ったら、要するに短冊に願いを書いて笹に吊るしておけば、願いが叶うんだ」
説明してくれたのは島崎だった。
一般的に知られているのが、天の川の両岸に引き離されてしまった彦星と織姫が七月七日だけ会うことができるというのが本来の七夕なのだが、それをユアに言ったところで興味はないと思われるので、あえて深くは言わない。
「ふうん。願いが叶うのか」
「そうなんだよ。ユアもお願いしようよ」
きっと楽しいよ、とフィアナはユアに笑いかける。彼女が楽しそうだと自分も嬉しくなる。
うんと頷いて彼女の髪をくしゃりと撫でた。
「そうだな、フィアの提案なら断る理由ないからな」
「面白そうね。願いが叶うかは別にして、人界にそんな行事があるなんて知らなかったわ」
さすがクロカもそんなことくらいで簡単に願いが叶わないことくらいわかっているが、そういう体験をしておくのも悪くはない。
「短冊に願い事とか、幼稚園以来だなー」
中学にもなって願い事を書いてる人はまずいないだろうが、たまにはいいのではないだろうか。
藤も二人に続いて同意を示した。
「じゃあさ、帰りにうちに来なよ。ねぇ?フィアナちゃん。力作なんだよね、笹」
「うんっ。わたしいっぱいがんばったの。見に来て」
洋輔に声をかけられてようやく思い出したのか、フィアナは手をぽんと合わせて大きく頷く。
あれだけ頑張ったのだから皆にも見せたい。
そう誘うフィアナたちを見守っていた島崎はふと隣に非難している浩輔を横目で見下ろす。
「いいのか?行っても」
「え?……ああ、別にうちは大丈夫だよ。それに来てくれたほうがフィアナが喜ぶ」
島崎が学校帰りにしかも大人数で押しかけるのはさすがに気が引ける、というのを心配しているのだと気づいた浩輔は笑みを浮かべた。
「そうか、ならいいんだ」
結局飾りつけが済んだのは夕食が終わった後で、それからみんなに見せに行く、と飛び出して行きそうになったのをさすがの真弓と薫も止めに入り、浩輔がなんとか説得をして落ち着かせたのだ。
それを聞いた島崎は安易に想像ができ、ふとフィアナを一瞥してから苦笑を洩らした。
「そんなに力作なら楽しみだな」
そう言って笑った島崎に浩輔が頷くと同時に昼休みが終わる予鈴が鳴った。



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