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06 : 第六話




浩輔が白界に赴いてから、早くも二日が経った。
残された中で一番洋輔が心配していた。狂うほどに。
「ああーっ。もう浩輔がいないとつまんないー!!」
初めはまだ心配している範疇だったのに、昨日くらいからか本格的に壊れだした。
しかも理由がひどい気もする。
「……洋輔、うるさい」
叫ぶたびにセノトはため息混じりに注意するのだが、治まる気配はまったくない。
一度治まったかと思うと思い出したように我が儘を言うので、さすがのセノトも実力行使に出ようかと考えたほどだ。
「そのうち戻ってくるだろう。おとなしくしていろ」
「そのうちっていつー!?」
そして昨日からこの繰り返しだ。
ああいえば、こういう。まったく切りがない。
心配なのはわかるが、こればかりはどうしようもない。あの二人次第なのだから。
それに命に関わることではないので、それほど神経質にならなくてもいいはずだが、彼はそれでも心配なようだ。
セノトは疲れきった様子で、本格的に息を吐き出した。


☆☆☆
用事でいつもより遅くに学校を出た島崎は校門前でユアと合流し、帰路に着いた。
遅くなるかもしれないということで、藤とクロカには先に帰ってもらっていた。
夕日が二人を照らし、彼らの後ろには影が伸びている。
もう魔神が動き出す頃だろう。
少し前を歩く人間の少年の横顔を見たユアはふいに呟く。
「フィアは大丈夫だろうか」
ちゃんと血を浄化してもらったのだろうか。
あれから二日が経つが、蓮呪からは何の連絡もない。言う必要がないのだから、別段心配する事態が起こっているわけでもないのだろう。
しかしそれでも不安は拭えない。
彼の一言には様々な感情が渦巻き、それを感じ取った島崎は肩越しにユアを振り返る。
浩輔は答えを出した。それもフィアナに協力するという答えを。
「信じてるんじゃなかったのか?浩輔のこともフィアナのことも」
あの子達と同じでユアも答えを出していた。
島崎は肩をすくめ、立ち止まって身体ごとユアに向き直る。
「言っとくけど、浩輔は一度決めたことをそう簡単に投げ出すような奴じゃない」
ただ不器用だから、人より誤解されやすいだけなのだ。
長く付き合っている自分なら彼の気持ちもわからなくはないが、自分の大切な人を傷つけたと捉えたユアにはなかなか印象を変えるのは難しいことだろう。
「俺は許すとは言ったけど、まだ信用したわけじゃねぇよ。でも前にも言ったように、あいつはフィアの希望になる。だからそれを奪うことはできない」
自分がどれだけ浩輔を恨んでいても、彼女を余計に悲しませるだけだ。
「なら、信じてもいいんじゃないか?少なくとも、あの子は浩輔を信じてると俺は思うし、きっとあいつなら大丈夫だ」
勘ではあるが、自分の知っている浩輔ならユアの期待を裏切ることはないはずだ。
遠回りしてでも、必ず辿り着くだろう。
ユアは逸らしていた視線を島崎の紫苑の瞳に向けると、小さくうなずいた。
「確かにお前の言うとおりかもしれないな。フィアがあいつを信じてるんなら、俺が何を言っても意味ないか。……変なこと聞いてごめんな、貴久」
どうせ後にはもう引けないんだし、その中で最善を尽くすしかない。
あの少年は答えを出したのだ。だから自分が守らなければいけない。あの儚い笑顔を。
自嘲気味に笑みを浮かべるユアに島崎は小さく首を横に振り、薄く笑みを口元に乗せて空を振り仰いで少女に思いを馳せる。
ずっとフィアナの近くにいたんだ。彼女は辛いことがあってもけっして笑みを絶やそうとはしない。無理にでも笑おうとする。
たとえ作った笑みだとしても、彼女の笑顔を守っていこうと幼いあの日に誓ったのだ。
空を見上げた彼の視線の先には紫色の中に輝く無数の星があった。



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