時計の針が四時を過ぎると、学校から次々と生徒たちが出てくる。
昼頃から一人で待っていたユアは学校から離れたところに建つ四階建てのビルの屋上から出てくる人間の子供を順番に眺めているが、あの二人はまだ出てきていない。
今日一日よく待てたな、と自分でも感心するほどだ。
ふいに仲間の気配を感じ、ユアは視線を生徒たちに向けたまま口を開く。
「手がかりは見つかったのか?」
造作もなく彼の隣に着地したクロカはその問いかけに曖昧な返事を返した。
「まぁ、それなりに。それで、藤くんたちは出てきた?」
彼女もユアと同じように出てくる生徒に視線を下ろして尋ねる。
先ほどから注意深く見ているが、まだそれらしき人物は見当たらないのでまだ出てきていないのだろう。
ユアは小さく首を横に振る。
しかしどれだけ大勢の人間の中にいようと、必ず見つけられる。
ふうんとうなずいて、目を凝らして眺めていたクロカはふいに見知った顔を見つけて声を上げた。
「あ、出てきたみたいよ」
彼女が指差すほうをユアも見て、その人物を確認する。
たしかに昨日会った顔だ。しかし、どう見ても一人多い気がするのは気のせいだろうか。
「友達かしら」
「さぁな。どっちにしろ、俺には関係ない」
ただ答えを聞いて、是なら即座に力を借りてフィアナを探すだけだ。
腰を浮かしたユアは立ち上がると、学校のほうに移動する。
☆☆☆
フィアナが浩輔を追っていってからおよそ三十分ほどが経った。
初夏は一年の中で一番日が長い季節だ。空は昼間より少し白みがかっていて、夕焼けになるまでまだ少し時間があった。
空を見上げていたセノトはふいに耳朶を叩いた高い声に、校門のほうを見下ろす。
聞き覚えのある、少女と聞き間違えそうな高い声。あれは光の神気を持つ人間だ。
少し前より生徒の数が減っていて、その中で遠目からでもわかる赤い髪をした少年が帰宅しようとしていた。
ふと彼の傍に二人の人間がいることに気づいた。
友達なのだろうか、とても仲がよさそうだった。
しかし彼には関係のないことだ。
セノトは少年を追いかけようと非常階段を駆け下り、裏口に出た刹那、二つの神気を感じ取って足を止める。
その次に驚いた声が聞こえた。
「え、セノト!?」
裏口から彼らに接触しようとしていたクロカとユアは、見知った人物が校内から出てきたのに気づき、驚いたように目を見開く。
「もしかして、セノトもこの近くにいたってこと?」
「……そのようだな」
信じられないといった体で尋ねてくる彼女に、セノトはいつもの抑揚の欠ける声音で答える。
お互いに初めからこの街の範囲内で行動していたようだ。
しかし、感知できなかったとはなんという失態だろうか。
「まぁ、仕方ないわよ。守護神の神気がなかったらうまく感知できないんだから」
微かにセノトの表情に憤りを感じたクロカはほうと息を吐き出す。
本当は彼女のも同じ気持ちなのだ。その中でも特にユアは気にしているはずだ。
「セノト、フィアには会わなかったのか?」
三人が同じ街にいるのなら、フィアナもこの近くにいるはずだ。たしか、情報にはそう書いていた。
急がせるように尋ねてくるユアの蒼い瞳を見返し、セノトは珍しく返答に窮する。
「フィアナは、闇の守護神を追っていった」
言いにくそうにしながらも彼女の意思を伝え、彼の表情を窺う。
綾夜が動き出しているにも関わらず、自分は彼女を見送ったのだ。
ユアが怒ることは目に見えている。どうしてついて行かなかったのかと。
しかし彼は怒るどころかこの上なく目を見開き、瞠目していた。
「……っち」
この近くにいたなら、探しにいけばよかった。どうして悠長にしていたのだろうか。
ユアは自分に舌打ちをし、セノトとクロカを見る。
仲間が取った行動を責めるわけにはいかない。セノトはいつも本人の意思を尊重する。
だから今回もフィアナの意志を優先に決めたことなのだろう。
「とにかく早くあいつらのところに行くぞ」
手遅れになる前に彼女と合流しなければ。
二人は無言でうなずくと、表通りに出た。
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