片方に用事がなければ、いつも浩輔と洋輔は一緒に帰っている。
ホームルームは比較的洋輔のクラスのほうが早いので、浩輔の教室の前で待っているのだが、その姿が今日はない。
一応彼の教室にも行くが、見当たらなかった。
疑問に思っていると彼に気づいたらしく、洋輔のクラスメイトが声をかけてきた。
「お、浩輔。いいところに。今お前んとこいこうと思ってたんだ。洋輔が先に帰っててくれって言ってたぞ、なんか呼び出されてた」
わざわざ行く手間が省け、次いでににっこりと笑みを浮かべるクラスメイトに浩輔は怪訝そうに眉を寄せる。
「あいつ、何したんだ」
遅刻の話なら数日前に自分が呼び出されたし、成績は勉強もしていないのになぜか自分より良いし、正直言って呼び出される要素がない。
それともまた何かやらかしたのだろうか。
「さあ?たいしたことじゃないって笑ってたけどな」
いつもいつも教師のほうが洋輔に踊らされている感じなのだ。なんというか彼は口が上手い。
口許に手を当てている浩輔に男子生徒はあんま気にしなくてもいいんじゃね?と気楽に言い、その肩をぽんと叩く。
「まぁ、いっか。教えてくれてありがと。じゃあな」
ひとまず伝えてくれたことに礼を言うと、おうと返してくれた彼の声を背に浩輔は教室を出て行った。
きっとあいつのことだからたいした呼び出しではないだろう。
☆☆☆
「セノトぉ、ひまだよ……」
屋上で守護神たちが出てくるのを待っていたフィアナは投げ出した足をふらつかせながらセノトに訴えかける。それも唐突に。
「それを俺に言ってどうしろというんだ」
なんと緊張感の欠ける会話なのだろう。
セノトはほうと息を吐き出し、遠くに広がった海を見つめる。
今の彼女には相当気持ちに余裕がないのだろう。おそらく冗談でも言っていないと、心が折れてしまいそうだから。
そう考えるとおどけてみせるフィアナの気持ちもわからなくはないが、このタイミングで暇はないだろう。
「もうすぐ出てくるんじゃないか?」
手すりにもたれているセノトは腕を組みながら、校門を見下ろす。
授業が終わったらしく、生徒たちがぞろぞろと帰宅し始めていた。
彼の言葉に同じように見下ろしたフィアナは生徒の中に紛れている微かな神気に気づいて、ぱっと表情を明るくさせる。
「あ、あの子だ」
指を刺す彼女の示す先を見たセノトは軽く目を瞠る。
青い髪をした少年は彼女に気づくわけもなく、校門に向かって歩いている。
「……よくわかったな」
自分でも見落としていたのに。
感心するセノトにフィアナはもうひとつお願いをする。
「ねぇ、セノト。わたしあの子追いかける」
その申し出に一瞬彼の動きが止まった。
黄昏時は魔神が活動を始める。今からの時間が一番狙われやすいのだ。
あれらは人ごみの中では姿を現さないので、人通りの多い場所を通ってくれれば取り立てて心配する必要もないのだが、彼らが住む住宅街はなぜか夕方になると人が少なくなる。
かわいらしい仕草で許可を求めてくるフィアナの紅の瞳を見下ろし、セノトはひとつ息を吐き出す。
「わかった、俺はあいつを待つから。……気をつけろよ」
「うん、ありがとう。じゃあ、いってくる」
フィアナは元気よくうなずくと、腰を上げて身を翻していく。
非常階段を下りていく彼女の小柄な後ろ姿を見ていたセノトは、やがて見えなくなると視線を校門に戻す。
たくさんの生徒が出てきているが、あの少年はまだ出てきていなかった。
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