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04 : 第四話




第四話 「死」



あれからいったいどれだけの時間が経っただろうか。
ずっと探しているのに、未だ手がかりすら見つからない。見つけ出すって、何回言っただろう。
それなのに、まだ見つかっていない。
口惜しい。あいつが私を置いていったことも、私がどれだけ探しても見つからない無力さも。全部、何もかも投げ出したい。
何度そう思ったことだろう。それでも今も私は探し続けている。
『どうしてそんなに必死に探しているんだ?』
どこからか聞こえた声は女性のものだが、幾分低いそれは厳かに尋ねる。まるで弱気になった彼女を責めるかのように。
その問いにクロカは怒ったように答えを返す。
「どうしてって、あいつが私の大切なものを奪ったからよ。こんな形でしか、取り戻せないから」
あいつは自分からすべてを奪った。裏切ったのだ。
絶対に許さない。
彼女の答えに嘲笑のような笑みを浮かべる気配が伝わってきた。
今この声の主は自分の中にいるから、彼女の少しの変化も全てわかる。
『なら、何を迷ってるんだ』
クロカはふっと微笑を浮かべた。
「別に迷ってないよ。ただ決意したことが揺らぐときもあるわ。ねぇ、ミシュラ。あの人は力を貸してくれるかしら」
空を仰ぎ見て、まぶたを閉じる。そこに浮かんだのはオレンジの髪をした明るい少年だった。
『さぁな。でも、俺にしてみれば扱いやすそうな感じだ』
意地の悪そうな笑みを口許に乗せて、ミシュラは喉の奥で笑ってみせる。
「そんなこと言ったら、藤くん怒るわ」
同じようにくすりと笑い、ほうと息を吐き出す。
おそらく今自分はとんでもなく頼りない表情をしていることだろう。
不安で、胸が押し潰されてしまいそうになる。
こんな顔、死んでもユアには見せられない。
『心配するな、クロカ。俺の勘だと、あいつは間違いなく協力してくれるさ』
彼女はクロカを元気付けようと、いつものように軽い口調で言ってのけると、その気持ちが伝わったのか、彼女は小さくうなずく。
「そうね、貴方の勘はよく当たるから」
全て覚悟してきたことだ。
断られてもあの子の出した結論なら、それに従うしかない。
少し、気持ちが楽になったかもしれない。
『まぁ、きつくなったらいつでも俺を呼べばいい。少しくらいなら力になってやる。それが契約だからな』
主のためなら何だってやってみせる。
本当は守護神の力を借りなくても、自分ひとりの力で彼女の目的を果たしてやりたいが、それも叶わない。
ミシュラは自分の力が及ばないことに腹が立つが、そんな素振りを感じさせず、クロカに笑いかける。
『で、あいつを探すんだろ?早くしようぜ』
「そうね、早くしないと夕方になるわ」
口許に手を当てクロカはくすりと笑うと、神経を集中させる。
この神呪は自分の中で最も苦手するものだが、それでもやってみる価値はある。
「”我のひとつの静かなる炎、主(しゅ)の意を伴い神気を探せ 烽炎(ほうえん)”」
彼女を中心にゆっくりと炎が渦を巻き、やがて細かく分裂すると消えることのない無数の火の粉となった。
「雷の神気を探してちょうだい」
それらに自分の意思を命ずると、合図とともにクロカの周りを浮遊していた火の粉は吹いた風にふわりと飛ばされていった。
「あれ、苦手なんだけど大丈夫かな」
不安そうに飛んでいった火を見送り、クロカはほうとため息をつく。
『まぁ、大丈夫なんじゃね?さて、俺は高みの見物といくわ。必要になったらいつでも呼んでくれていいからな。その日の気分だけど』
最後にそう付け加えて彼女は無邪気に笑みを湛えて言うと、気配が小さくなっていく。
少し神気を強めれば、自分の内に宿る精霊と言葉を交わすことができるが、時間が限られている。
これでミシュラには少量の休養が必要だろう。
「全く、気分屋なんだから」
自分の中の精霊はとても自分勝手だ。
クロカは肩をすくめてみせる。
しかしそんな彼女だから、自分は炎の神気を選んだのかもしれない。



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