≫ No.4

02 : 第二話



☆☆☆
守護神たちと別れたフィアナとセノトはそのあと、神気の気配が感じられる範囲で待機していた。
すっかりと太陽は沈み、たくさんの星が紫色の空に瞬いている。
「協力してくれるかな……?」
今いる場所より東を見つめているフィアナは独り言のように小さく呟いた。
あの様子だと希望は見えないが、万が一ということもある。いや、あってほしい。
木の幹に背中を預けているセノトは腕を組みながら彼女を横目で一瞥する。
根元に腰掛けているフィアナからはセノトの表情がうかがえず、視線には気づかない様子で空を見上げたままだった。
突然現れて何も話していない状態で協力を求めても、結果は目に見えている。それは彼女も知っているはずだ。
しかしあの状況で事実を話しても逆効果だということも前回の失敗からわかっている。
だから、覚悟していたはずなのに。
「辛いか?フィアナ」
実際にあれほどはっきりと拒否されれば、誰だって落ち込んでしまうだろう。
その気持ちはわからないでもない。
セノトは静かに問いかけると、少女は視線を空に向けたまま素直にうなずく。
「でも決めたのはわたしだし、あの人を探したいとゆったのもわたし。覚悟はしてるよ」
ただ、ほんの一瞬その覚悟が揺らいでしまっただけ。
「だいじょうぶ。まだがんばれるよ」
逃げ出したい気持ちは十分にわかるが、それでもこの子は逃げ出すことをしない。
どれほど立ち止まっても、必ず前に進もうとする。フィアナは四人の中で誰よりも勇気を持っている。
ちゃんと自分の過ちを受け止め、解決しようとする。それが彼女の長所なのだろう。
「まだだいじょうぶ」
噛み締めるようにもう一度呟くと、一度深呼吸をする。少し気持ちが落ち着いたかもしれない。
彼女の表情が幾分か回復したのを確認すると、セノトはフィアナを顧みる。
「フィアナ、少し離れるがひとりで大丈夫か?」
一歩前に出た彼は見返してくるフィアナの顔を見下ろして尋ねる。
「うん、だいじょうぶだよ。いってらっしゃい」
セノトにも目的はある。いつまでも自分に付き添ってもらっていては彼も自分の目的に集中できない。
夜は怖いが、それで彼を足止めしては駄目だ。
フィアナは薄く笑ってうなずくと、手を振る。
「悪いな。朝までには戻る」
彼女をひとりで残すのは少々心配だが、そうも言ってられない。
セノトは一言詫びると、身を翻して夜の街に消えていった。
その背を見送っていたフィアナはほうと息を吐き出して、再び夜空に視線を戻す。
夜はまだまだ長い。この闇は自分の心の中の不安を大きくし、恐怖が芽生える。
「それでもわたしは………」

どんなに拒まれたとしても信じることはやめない。きっとあの子がわたしに道を与えてくれる。
そんな気がするんだ。



☆☆☆
すぐに答えを出さなくてもいい。考えて自分なりに納得のできる答えを出してほしいから。
たとえ協力を断っても恨むことはしないし、できる限り最後まで守るつもりだ。彼らの命が尽きるまで。
そうは言ったものの、やはり気持ちは嘘をつかない。
「ちょっとユア!?さっきからうろちょろと目障りよっ。少しは落ち着いたらどうなのっ?」
先ほどからクロカの目の前を落ち着きのない様子で行ったり来たりしているユアにとうとう彼女のリミッターが最高潮に達する。
これ以上は我慢できない。迷惑極まりなさすぎ。
ただでさえ、クロカもいつ答えが出るかわからない、先の見えない状態の中では待つのは苛立ちも募ってしまう。
「落ち着いてられるかっ。やっぱフィアを探してくる」
あいつが人界に来ているのだ。こうして待っている間にも彼女に危険がないとも言い切れない。
それにこの近くにいることは確かなんだ。なら、フィアナを先に見つけてからでも遅くはないはずだ。
しかしそれをクロカは間髪入れずに否定する。
「バッカじゃないのっ?もしフィアナを見つけたとしても、神言がない状態だったらあんたも怪我だけじゃ済まないわよ。
とくにあいつも動き出してるんだから」
昨日感じた神気の主は協力がない自分たちでは到底敵わない。
たとえ白界で最も強いとされているユアの力でも相打ちか最悪敗けるだろう。
クロカの的確な言葉にユアはぐっと詰まり、小さく舌打ちをもらす。
彼の思いがけない行動には不本意ながらも冷や汗をかく。クロカは息を吐き出して真剣な表情になる。
「とにかく明日の夕方に、もう一度会いにいきましょ」
待っていても彼の苛立ちは募る一方だし、行動しているほうが気も紛れるだろう。
それにもしかすれば、もう答えは出ているかもしれない。



☆☆☆
どうしてもあの少女のことが頭から離れない。
突然目の前に現れ、自分を探していたと言った。なぜ自分なんだ。
今まで何の前触れもなく、ただ普通に生きてきた。
いきなり守護神だとわけのわからないことを言われ、力があると言われても信じられるわけがない。
でも彼女は言ってた。

君だから、その力がある。だからわたしには君じゃなきゃダメなの。

自分にしかない力があの少女に強さを与える。
なら、洋輔はどうなのだろうか。
同じ時に生まれ、今までずっといっしょにいたんだ。
自分にあるものは洋輔も持っていて、洋輔が持っているものはたいてい自分も持っている。
でも、仮に彼女が自分に言ったことを洋輔に言っていたとしたら、彼はどう返事をしたのだろうか。
少なくともうなずいたはずだ。
あの子は優しいから助けを求められれば、躊躇せずにいいよとうなずく。
顔も声も、ほとんどが同じ自分たちの中で唯一正反対のもの。自分は優しくないから、手を差し伸べることに躊躇してしまう。
どうしても身体が拒否を示し、自分の行動を鈍くする。
あの少女にも鋭い言葉を投げつけてしまった。
おそらく彼女を傷つけてしまったはずだ。去り際に見せた悲しい瞳が今も脳裏に焼きついて離れようとしない。
だったら、いったい自分はどうしたらいいのだろうか。
「………フィアナ、て言ってたな」
浩輔はゆっくりと瞳を閉じる。
目の前に現れたのは、水色の髪に紅蓮の瞳をした少女だ。
できれば面倒なことには首を突っ込みたくはない。いつか、この答えは出るのだろうか。
あの子にとって良い答えが。



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