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14 : 第十四話




黒界の中枢である街「アクセア・クレイム」は六角形の形をしていて、中心部に長の住まう建物がある。
正面に見えていた一番高い建物だ。それを中心に六つの区に分かれていて、それぞれ商業や工業、住宅地などの役割がある。
門から中心に向けて半時間ほど歩くと、中枢建物に着いた。
「ここ?」
先頭を歩いていたフィアナとユアが立ち止まったので、後ろを歩いていた二人も反射的に尋ねる。
浩輔は着いたと判断して尋ねるが、フィアナは首を横に振る。
「ちがうよ、ここは黒界の長がいるところなの」
「情報屋はこっちだ」
ユアが指差したのは建物の脇に続く細い小路だた。どうやら中枢建物の裏へと続いているようだ。
入っていくと人通りはぴたりとなくなり、高い建造物に囲まれているせいで昼間なのにひっそりとしていて薄暗い。
柄の悪い輩がいそうな雰囲気だが、中枢建物に近いせいかそういった者はいなかった。
さらに進んでいくと開けた場所に出て、右手に古い一階建ての家が立っていた。
「あれだよ、情報屋」
フィアナは指を差して今度こそ到着したことを浩輔と島崎に教える。
「えらく普通なんだな」
どういったものを想像していたか、と聞かれれば答えにくいが、少なくとも言われなければただの古い空き家と取れる外観をしているとは思っても見なかった。
島崎の率直な意見にユアは肯定を示す。
「まぁな。情報屋はいろいろと恨みとかも買うし、表立ってできるもんじゃねぇからあんまり目立たないようにしてるんだ。あれから場所変わってなくてよかったな、フィア」
「そうだね、心配だったけどよかった」
彼女たちが依頼をした情報屋は黒界一と謳われる腕の立つ情報屋で、知らない人はいないのではないだろうかというほどだ。
認知度が上がれば様々な依頼者が尋ねてくる。フィアナのような人探しから、闇に手を染めている者が相手を陥れる情報を求められることもある。依頼主はそれで目的は達成できるかもしれないが、その相手は情報を渡した情報屋を恨むかもしれない。そうなると命を狙われることもあるので、足跡を辿られないようにある程度経てば場所を移動するのだ。
こちらとしては何の知らせもなく場所を移されるのは迷惑な話なのだが、それも致し方ない。
とりあえず四人は扉の前まで行き、当事者であるフィアナが先に扉を開ける。
「こんにちはー」
「はい?」
「…………………」
挨拶とともに中に入ると、声に気づいて出てきた人物を見てフィアナの表情はぴたりと固まってしまった。
そしてそろそろと後ろを振り返り、ユアに助けを求めた。
「どうしたんだ?」
フィアナの様子がおかしいことにさすがの彼も気づき、ユアは彼女の横から室内を覗く。途端、彼女と同じような反応をし、目を見開く。
「は?……こ、浩輔!?」
彼は出迎えてくれた少年を指差し、わなわなと唇を振るわせる。
いきなり名前を出された浩輔も全く状況を把握できていない様子で、不思議そうな顔のまま中を覗き込む。そしてその人物を目が合った瞬間、浩輔と少年、お互いに目を瞠ったまま硬直してしまった。
「え…え……」
少年は目の前に並ぶ四人を見渡し、整理がつき切れていない様子で混乱している。

くせのない綺麗な青髪は肩につかない程度で、同じ海色の瞳は困惑と驚愕の色を宿している。
今目の前にいる青髪の少年たちとほぼ同じくらいの年で、顔立ちには幼さが残っている。どちらかと言えば可愛らしい表情をしている。
左だけ袖のない紫色の服は膝くらいまでの丈で、袖のついている右の裾には繊巧な刺繍が施されていた。

互いに全くの初対面なのに、まるで鏡を見ているかのように似通っている相手を見て、二人とも視線を外すことも忘れて凝視していた。
「浩輔、お前三つ子だったのか」
「ち、違うっ。何言ってんだ」
思わず呟かれたユアの言葉に浩輔は即答で返す。
周りの仲間も理解はできていないが、本人たちはもっと理解できていない上に不思議な気持ちなのだ。
「自分と同じ顔が世界に三人はいるって言うけど、本当なんだな」
島崎ももはや驚きを通り越している。
彼の言うとおり、そういう言葉もあるが、種族を超えて同じ顔というのは何とも妙な話だ。
どこか他人事のようにそれぞれ意見を言っているのを、浩輔はどうでもよくなってきた。
とりあえず、自分は彼と初対面で生き別れの兄弟でもなければ赤の他人なのだ。その事実だけで十分ではないか。
あまり深く考えないでおこう。
そう考えてほうと息を吐き出したところに、また中から声が聞こえてきた。
「瑠香(りゅうか)?お客さん?なんか騒がしいけど……」
狭い玄関先でいったい何をがやがやと騒いでいるのかと、顔を出したのはクロカと同じくらいの少女で客の中に自分の仲間にそっくりな顔を認めて、今までのフィアナたちと同じ反応を示す。

くるんと巻いた茶色の髪は耳の上で丸い団子を作り、その下から肩につかない程度に流している。少年と同じ海色の瞳はやや吊り目勝ちで、何にも負けないという強い光を持っていた。
橙色のチャイナドレスは動きやすいように丈が短く、両端が裂けている。彼女のほうは右の袖がなく、もう一方の袖の裾には瑠香と同じ刺繍がされてあった。

「りゅ、瑠香が、二人!?ど、どういうこと……」
頭が混乱している様子で、少女は瑠香と浩輔を交互に見る。
「ね、姉さん、とりあえず落ち着いて。…僕にもよくわからないんだけど」
「「……姉さん?」」
とりあえず瑠香が姉を静めようと宥めていると、彼の言葉の中に聞き慣れない単語を聞きとめ、フィアナとユアは異口同音に反復する。ここまでぴったりと息が合ったのは今までにはなかったかもしれないが、そんなことを喜んでいる余裕は彼らにはなかった。
「待って、まず状況を整理しましょ」
いつまでも混乱のまま突き進むわけにはいかないので、一つ気持ちを切り替えると改めてフィアナたちを見て、どうぞ、と中に招き入れる。
「うん、ありがとう」
フィアナが礼を言って上がらせてもらうと、四人は彼女に続いて正面の部屋に入った。



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