≫ NO.2

14 : 第十四話




次の日、彼らは先日訪れた高台にある公園に集合していた。
昨晩、突然今日のことを聞いた島崎も一緒だ。ユアもフィアナと同様に来るのはどちらでもいい、と言ったところ、浩輔と同じく行くことを決めた。
同じ頃にさっそく藤から買い物への誘いの電話が届いたのだが、預かっている側としてもユアの行動は心配なので、彼には悪いが断って後日行くことにしたのだった。
ファイネルである二人が何事かを話しているのを少し距離を置いて眺めながら、島崎は何とも言えない気持ちになる。
彼らの姿は自分たちとは何ら変わりのない普通の子どもなのだ。言われなければ気づかない。
そして年の取り方違うことで、彼らは人間ではないことに気づかされる。
自分たちがあと十年経つと、大人になってしまう。しかし彼女たちはたかが十年経ったくらいでは、姿は今と全く変わらない。
そう思うことで、彼らを拒絶することはないが、時々知らされる自分たちとの違いで、何とも奇妙な存在なんだ、と思うことがある。
本当に不思議な存在なのだ。
「じゃあ、行くよ」
そんな考えを巡らせていた島崎だが、フィアナの声に我に返ると浩輔と二人、彼女たちに近づく。
どうやら準備が整ったようだ。
そしてふと何かに気づいた浩輔はフィアナの瞳を凝視した。
「その目……」
彼はフィアナの瞳が赤色から青色に変わっていることに見つけ、島崎も浩輔の指摘にようやく気づく。
呟く浩輔の言わんとしていることを察し、フィアナは薄く笑った。
「コンタクトレンズだよ。この前、白界に戻ったときついでに蓮呪にもらったんだよ」
浩輔の家で生活するようになって服や日用品を取りに戻ったときに、蓮呪に用意してもらったものだ。使うときは必ず来ると、フィアナにはあらかじめわかっていた。
ふいに言葉にしてしまった浩輔は自分の失言に後悔する。
彼女のことは全てではないにしろ、知っていることではないか。
「あ、別に気にしてないよ?」
浩輔の面持ちが少し翳ったことに気づいたフィアナは、彼が思っていることを読み取って笑みを浮かべる。
「注意深さがねぇな」
ユアも口を挟んでくるが、浩輔には言い返すことができなかった。
人界で紅色の瞳の意味を知っている者はいないが、今から向かう黒界には白界同様伝承が伝わっている。
「噂っていうのは厄介だからな。根拠もないのに広がるのは早い。もとは白界で生まれた瞳の伝承も今じゃ黒界にも流れてるし」
昔は白界と黒界の間には人の流れがあった。ナフィネルが白界に移り住むこともあったし、その逆もあったわけだから、そういった中で双方の文化や言い伝えは共有され、広まっていのだ。
「とりあえずさっさと行こうぜ。でないと日が暮れる」
「そうだね」
ユアの言葉にフィアナも同意を示すと、彼女は神経を集中させる。
小さく神呪を唱えた刹那、桜の花びらが四人を取り囲むように逆巻くと、音もなく全員の姿を包み消した。そのあとを桃色の欠片が余韻のように風に飛ばされ、辺りは何事もなかったように静寂に満ちていた。



☆☆☆
同じ頃。
「藤くん、ゲームする暇あったら少しくらい課題片付けたら?」
居間で藤がテレビに向かって渋面を作っているのを見て、クロカは視線をプリントから上げてほうと息を吐く。
先ほどから先に進めない、と唸りながらゲームをしているのだが、彼の課題はまったく手をつけられずに部屋に放置されているのだ。
その話題には触れてほしくなかったのか、藤はぎくりと肩を震わせる。それに気づいたクロカは自然とため息が零れた。
「島崎くんだって都合あるんだし、しょうがないわ」
そもそも毎回藤の都合で事が運ぶわけもない。それは藤にもわかっていることだとは思うが。
「いや、別にそれはいいんだけどね」
「そう?じゃあ、今度遊びに行くためにも少しでも宿題終わらせましょう」
「え…いや、ほらまだ夏休み入ったばっかだしさ、そんな焦らなくても……」
「そんなこと言ってたら、あっという間に休みなんて終わるわよ。先に嫌なことやってしまったほうが、後が楽になるでしょ」
さ、早くやりましょ、と言って彼女は部屋に置いていたと思っていた藤の宿題の山をテーブルに置き、それを見た彼はがっくりと肩を落とした。
そんなやり取りをしていた二人は窓の外の植え込みがかさりと音を立てたことには気づかなかった。
そこから顔を覗かせたのは白銀の毛並みを持った猫であった。獲物を監視するような鋭い視線を室内に向けている。その目は綺麗なサファイアブルーをしていた。
やがて猫はふいと身体の向きを変えると、軽く跳躍して塀の上に飛び乗る。もう一度視線を彼らに向けるが、一瞥するだけでそのまま向こうの道路へと降りていった。



NEXT PAGE→
←BACK PAGE

copyright (C) 2011 春の七草 All Rights reserved.