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14 : 第十四話




第十四話 「驚きの情報収集」



世間は七月の下旬に入った。太陽がじりじりと照りつく中、中学校では一学期の終業式が行われ、明日から夏休みに入ろうとしていた。
「よっしゃー、明日から夏休みだー!」
終業式は昼までで、早々に学校を出た八人の中で心の底から夏休みを喜んでいる藤は嬉しそうにはしゃぐ。
夏休みと言えば、海やプール、毎日遊びに行くことができる。それが今から嬉しくて仕方がなく、いつも夏は辛そうにしている彼の足取りも暑さなど感じていないように軽い。
しかしそんな喜びを打ち消す言葉が親友の口から放たれる。
「宿題はちゃんとしろよ。最終日になってできてないって泣きついてきても俺は知らないからな」
「…………………」
そうだった、藤にとって中学生最後の夏休みにも関わらず、宿題が山ほど出されていたのだ。しかもその上今年は受験なのでそれの関係で自習も宿題の一覧に記載されているのだ。
目に見えて意気消沈する藤を見て、島崎はついさっき言われたことを綺麗さっぱり忘れている彼の覚えの悪さに頭痛を覚える。
毎年のことながら夏休みの最終日になって、まったく宿題が終わっていないと泣き言の電話が島崎邸に届くのだ。毎回長期休みに入る前や休み中に出かける際に、そんなことにならないように忠告はするが本人にまったく学習能力がないらしく、結局島崎も手伝わされる羽目になる。
「……こ、今年はちゃんと自分でするよ。うん、早く終わらせる」
「毎年言ってるけどねー」
「それを言うなって、洋輔」
決意はするものの、洋輔の言うとおり実行に移せたことは過去に一度としてない。
藤は水を差した洋輔の頭をがしがしと乱暴に掻き回し、洋輔がやめてよ、と抗議の声を上げる。
「まぁ、宿題はちょっとずつやるとして、まずは服屋とか行きたいなー」
しかし宿題ばかりに追われていてはせっかくの夏休みが台無しになってしまう。
とりあえず遊んでから、宿題をやれば大丈夫。何せ夏休みは一ヶ月以上あるのだから。
親友からそういう思考がありありと見えた島崎は深い深い息を吐き出した。
なんだかんだと仲のよい二人の会話を聞いていたフィアナは何かを思い出した風情で、隣にいたユアと浩輔を見上げる。
「あ、わたしもね、お休みに入ったら行きたいところあるんだけど、いいかな?」
彼女の表情が微かに強張ったことに気づいた二人は無意識のうちに身構える。
「なんだ?」
「あのね、黒界に行きたいの。でもひとりじゃ怖いから……」
その一言で、尋ねたユアの瞳に険しさが宿る。
彼はフィアナの意図するところを正確に読み取ったが、浩輔には皆目検討もつかなかった。
黒界は白界と対になる世界だ。自分が先日訪れたのはファイネルが住む白界。黒界はナフィネルという種族が住んでいる。
いったいそこに何の用があるというのだろうか。
意味の掴みきれていない彼の様子に、珍しくユアが説明を加える。
「黒界に腕の立つ情報屋があるんだ。ここに来る前に依頼をしたから、何か情報を掴んでいるか聞きに行くんだ」
「……情報屋」
そんなものがあるのか、と反復しながら浩輔はフィアナを一瞥する。
そこまで教えてもらうと、あとは何の情報を聞きに行くかは彼にも想像はつく。
「俺はフィアのために一緒にいるんだし、当たり前だろ」
もともとフィアナを守るために自分はここにいる。断る理由はどこにもないし、それに今までの彼女なら一人で行こうとしていたから逆に頼ってくれるのは嬉しかった。
彼の返答にフィアナはぱっと表情を明るくさせると、可愛らしく微笑んで礼を言う。そして視線を浩輔に移した。
浩輔が行きたくないと言えば無理強いはしないが、黒界にも魔神は存在している。目的地は街中で夕方までには戻るつもりなので心配することもないが、もしものことがあれば、自分の身さえ守れるか不安だ。
行かないほうを選択すれば、彼の寿命を縮めてしまうが神言を唱えてもらってから向かうことになる。
「黒界も安全じゃないから、浩輔が決めていいよ」
「何の力にもなれないけど、それでもよかったら、ついていっていい?」
彼女は種族の違う自分たちのことを知ろうとしている。今まで無知でいた分、今は彼女のことを知りたいと思っている。自分に出来る限りのことをしたい。それが自分勝手に行動をして彼女を傷つけてしまったことへの償いだ。
「うん!ありがとう、浩輔」
なるべく危険のないように、彼は自分が必ず守る。
浩輔にはどうしてか傍にいてもらうと、すごく安心できるのだ。
ほっとした風情のフィアナの表情はとても明るかった。
「それで、いつ行くんだ?」
「早いほうがいいだろうから、明日はどうだ?」
浩輔の問いかけにフィアナではなくユアが答え、当人の意見を求める。
確かに彼の言うとおり早いに越したことはない。
「そうだね、二人は明日で大丈夫?」
自分の都合で決めることはできない。案を出してくれたユアは大丈夫だろうが、浩輔はわからない。そういう意味も込めて二人に問いかけると、二人からは頷きが返ってきた。
「じゃあ、明日だね」
お願いします、とフィアナはにこりと笑った。



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