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11 : 第十一話




教室に向かうと、すでに親友である結陽は到着していて、他のクラスメートと他愛のない話をしていた。
「あ、浩輔。おはよー」
入ってきた浩輔に気づいた彼は話を中断させて近づいてくる。
それに笑って応じ、ひとまず鞄を机の上に置く。
浩輔の席は窓側から二列目の一番後ろにある。自分の席についてほうと息を吐き出した浩輔に続いて結陽も来ると、その前の席を借りて座る。
「なんか朝から疲れてるな。いつものことだけど」
そう言って彼は憐れんだ瞳を向けてきて、浩輔は目を半眼にする。
「そういや、今日転校生来るって知ってる?」
親友からの返答がないことに別段気にした様子もない結陽は机に頬杖をつき、浩輔を上目遣いに見ながら話を続ける。
その言葉に一瞬浩輔の動きが止まった。
なんと情報の早いことだろう。こうなれば、呆れるどころか逆に感心してしまう。
「へ、へぇ。そうなんだ。よく知ってるな」
いったいどこでその情報を仕入れてきたのだろうか。尋ねたいところだが、迂闊な発言は極力控えなければ。学校ではお互いが初対面を装わなければならないのだ。
自分の勘ではすぐにバレそうな気はするが、なるべく自分からは言わない。
「さっき職員室行ったらうちの担任が慌しかったからな。四人だって。珍しいよな、こんな時期に」
結陽は頬杖をついていた顎を外し、後頭部で手を組む。
人数まで把握しているらしく、彼は転校生が入るクラスを順に挙げていく。
四人のうち二人が三年で、残りが自分たちの学年のようだ。
たしかにこの時期にしかも四人の転校生は珍しい。浩輔にはそこで同意を示すしかなかった。
「あ、あと来るのはうちのクラスと洋輔のとこだってよ。うちは女の子らしい」
どんな子だろうな、と嬉しそうにする結陽を見て、浩輔はフィアナを思い浮かべた。
もしかしなくとも、それぞれ守護神がいるクラスに転入するつもりなのだろう。出会ったことのない彼らの長を本気で尊敬する浩輔である。
「そこまでいくともう感心するしかないな」
まったく彼の情報網は侮れない。早々に気疲れしそうだ。
浩輔はほうと息を吐き出し、肩を落とした。
そのとき、ホームルームが始まるベルの音が構内に響き渡った。
「おーい、席つけよー」
陽気な声とともに入ってきたのは、浩輔のクラスの担任である教師だった。
四十代後半ほどで小太りしている男性である。
彼は教卓に手を置き、クラスを見渡してから視線を扉のほうに移した。それと同時に生徒たちの視線も教師と同じ場所に向く。
「入ってきてくれ」
その声に応じ、ゆっくりと教室に入ってきたのは水色の髪をした小柄な少女だった。
いっきに教室内が騒がしくなる。
「えー、今日からお前たちの仲間になる如月だ。如月、みんなに挨拶してくれ」
「はい」
フィアナは教師の瞳を見返して頷くと、クラスメイトたちのほうに向き直った。
そして満面の笑みを向ける。
「如月フィアナです。これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ、上げたときにはもう一度笑いかけた。



☆☆☆
同時刻。
三つ隣にある洋輔のクラスでも自己紹介が行われていた。
三十代前半といった若い女教師と一緒に入ってきたのは、とても中学生には思えない大人びた雰囲気の少年だった。
「じゃあ、自己紹介してくれますか?」
彼女は花のような優しい笑みを浮かべ、やんわりとした口調で促すとセノトは無言で頷いて一歩前に出た。
生徒の中には先ほどまで一緒にいた少年もいたが、それには気にした様子もない。
「弥生セノト、です」
自己紹介の意味をわかっているのか、一言でそれも棒読み感のある言い方で済ませるとそれ以上は何も言おうとしなかった。
それに女教師は困ったような笑みを浮かべていて、洋輔はくすりと苦笑を溢す。
いつもの無口無表情はどこに行っても変わらずに健在のようだ。それが何だか可笑しい。
指定された席に向かう途中、女子生徒たちが微かに赤面して小声で話している姿を一瞥するが、セノトは別段気にしたふうもなく着席した。



☆☆☆
そして最も問題であるのは、三年に転入してくると噂されているクラスではないだろうか。
珍しく一クラスに二人も転入生が来るということで、朝から結構な話題になっていた。
「はいはい、ホームルーム始めるから席ついてー」
出席簿を片手に入ってきたのは四十にはまだ満たない女教師だった。彼女は面倒くさがりで有名で、たまに授業を十五分で終わらせるときもある。
ぞろぞろと自分の席につく生徒たちを見回し、彼女はにこりと笑みを乗せた。
「今日は転校生紹介するからね。さ、入ってきて」
そう言って教師は呼びかけてみるが、一向に入ってくる気配はない。クラス中がどよめく。
「……?」
首を傾げ、様子を見に行こうとした刹那、聞こえてきたのは怒声だった。
「なんでお前と同じクラスなんだよっ」
「そんなの知らないわよ!だいたいあんたと四六時中いるわけじゃないんだからいいじゃないっ」
「なっ……当たり前だっ!ずっと一緒にいてたまるかっ」
どういうわけか言い合いになってしまい、歯止めが利かなくなってしまったようだ。
そのケンカにクラスの生徒はざわざわとしている。
担任の女教師は頭を抱えてため息を吐き出した。それは島崎も同様で頭を抱えていた。
転校初日から頭痛が起こりそうだ。
「おーい、転校初日からケンカしないの。まぁ、ケンカするほど仲がいいって言うしね。とりあえず話進まないから中入ってくれる?」
怖いもの知らずというものはこういうことをいうのか。
武器を出して戦闘に入ってしまいそうな二人の間に教師は何とも普通に割り込んで、ケンカを制止させる。
呆気に取られていたクロカとユアははい、すいませんと謝り、罰の悪そうに教室に入った。
入った途端くすくすと笑う声が聞こえてきたが、それを気にする二人ではない。
「じゃあ適当に自己紹介お願いね」
教師にしては不適切な単語も含まれていた気がするが、彼女に促されて二人は顔を見合わせ、目配せをする。
「俺は葉月ユア。よろしく」
「霜月クロカよ。よろしくね」
教室内を一通り見回し、見知った顔を見つけてクロカは薄く微笑む。
そんな二人の間が少し空いているのを見て島崎は肩を落とした。
学校に行くと今朝言い出したときには正直驚いたが、どこか他人と距離を置いているユアが行くと言ったことのほうが衝撃は大きかった。
しかしどこからその制服やらを調達してきたのだが謎だ。



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