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03 : 第三話




昨日の彼らの話は本当に信じていいのだろうか。
ユアたちが人間ではないことは信じるを得ないだろう。それに他にも世界があることも。
彼はどうしても自分に宿っているという神気を借りたがっていた。
神気がどういうものなのかはわからないが、それを自分は持っているという。
ユアの願いはただ大切な、失くしたくないものを守りたい、それだけのために自分を賭け、この風の力を必要としている。
しかしそのためにはこちらの命を賭けないといけない。今までどおりの平和な日常とは変わったものになってしまう。
だからあの少年はそのことも危惧していたから、答えはどちらでもいいと言ってた。


一歩間違えれば、死ぬかもしれねぇ。俺もクロカも万能じゃねぇからな。でもお前の力がないと、俺は本来の力を使うことができない。
だから、ちゃんと考えてほしい。命を賭けてもいいと思うか、今までどおりの生活を望むか。
最終的に決めるのはお前らだから、俺らは説明して首肯してくれるのを信じることしかできない。


ファイネルという存在に出会ったことで、元の生活に戻ることは難しいが、少なくとも危険はない。
でも島崎にしてみれば、昨日の話はどこか強制しているとも取れる。
本人たちにその自覚はないようだったのであえて言わなかったが。
それに自分の親友はおそらくすでに答えは決まっているだろう。
あいつは困っている人がいれば、必ず手を差し伸べる。自分の思ったとおりに行動する。
そして、自分もとうに答えは決まっている。
彼らは命に関わることだから十分に考えてほしいと言っていたから、昨日は答えなかったが。
島崎はふいに自分を呼ぶ声に気づき、現実に引き戻された。
「おーい、島崎ぃー」
「……なんだ。てか、離れろ」
言いながら顔を近づけてくる藤の頬を押し返し、呆れた様子で目を半眼にする。
島崎は何の用だ、と不機嫌そうに問いかけると、机に片手で頬杖をつきながらため息をつく。
性格は正反対なのに、よく付き合えているものだなと最近思っているのだが、おそらく彼のこういう社交的な性格を持っているから、お互いに気まずいということがないのかもしれない。
藤は一歩下がってしゃがみ込むと、机に置いた腕に顎を乗せる。
「昨日の話、お前はどうすんの?」
突然切り出された話題の内容に、島崎はいつにも増して眉間に皺を寄せる。
なんでこいつはいつもこう客観的なのだろうか。その気楽さが時々うらやましくなる。
そこが彼の長所なのだろうが。
島崎は真剣みを帯びた表情で藤を見返し、考える素振りをする。
昨日の話というのは、ファイネルと名乗るあの二人の話した内容のことだ。
先ほどまで自分も考えていた。
彼らに協力の答えを返さないといけない。
そして自分たちの答えで彼らの道が決まり、何よりも彼らは首肯してくれることを望んでいる。
大切な人を守りたいと言っていたユア。人を探しているクロカ。
どちらも私用で、強制はできないとも言っていた。でも。
「どちらにしろ、巻き込まれているのには変わりないしな。クロカの言ってた対処法も絶対とは限らない。それならあいつらに力を貸したほうが、身の安全は確保されるんじゃないか?」
力を借りるということは、彼らは常に近くにいることになる。それなら一人で怯えながら過ごすよりは危険度は低いはずだ。
その考えに至らなかった藤はいまさらながらになるほど、と相槌を打つ。
「お前じゃないが、困っているふうだったし。……あの子かわいいしな」
「だーかーらー、理由それだけじゃないって言ってるじゃんか」
最後に呟かれた言葉に反論しながら、苦笑いを浮かべる。
「でもまぁ、関わっちゃったし」
それに信じがたい事実も彼らの話にはあった。
しかし嘘を言っているわけでもないし、あの状況で冗談を言う奴らとは思えない。
「あと、少ししかないなんてな」
「……そうだな」
その事実に今まで生きてきた十五年はいったい何だったんだろう。


それは、限りなく残酷なものだった。


守護神は何者をも凌駕する力を宿している代わりに、力は儚い人の子の器では耐え切れない。身体は徐々に弱り、最終的には壊れる。
だから、守護神と称されている人間の寿命はそう長くない。もって三十年といったところだ。
それだけ短く儚い人生だから、最後まで自分の意思で生きたいというのが、今までの大半の答えだ。


「そんなに短い寿命ならめいっぱい自分のやりたいことやりたいけど、なんか今はクロカちゃんの力になりたいって思ってる」
死ぬのは怖い。しかし、なぜか今はそう思う。
あの女の子を助けてやりたい。
彼らに関わったからといって、今までのことが全部ひっくり返るわけじゃない。きっと大丈夫だ。
最後は悲しいだろうが、これが自分たちの出した答えだから。



第三話終わり



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