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02 : 第二話




第二話「拒否」



わかっていたことだが、実際にそれを目の前にすると心が揺らいでしまう。
あれほど硬く拒否を示した彼の瞳がどうしても脳裏から離れない。



***
非常口から中へと入った二人が初めに立ち寄った教室には人影はいなかった。
「わぁ、いっぱいものが置いてある……」
たくさんの教材が山積みになっていて、そこが物置であることは一目瞭然だ。
おそらく少子化の影響で、昔はこの部屋まで使われるほど子供の数が多かったのだろうが、時代が進むにつれて子供の数は減り、物置と化したのだろう。
「フィアナ、先行くぞ」
珍しそうに室内を眺めているフィアナの後ろ姿を見ながら、セノトはほうと息を吐き出す。
こんなところでもたもたしていて見つかっては元も子もない。
できるだけ早く確認して、ここから出たほうが賢明だ。
彼はフィアナの腕を軽く引っ張ると、なるべく気配を断ちながら廊下を歩いていく。
ほどなくして人の話し声が廊下に響き、学校に来たことがないフィアナは目を輝かせる。
「人がいっぱいいる………」
見つからないように教室の中を覗くと、だいたい四十人くらいの生徒が授業を受けていた。
これほど大勢の人間を見たのは片手で数えられる程度だろう。
セノトも同じように部屋の中を覗いてみて、ふいに眉を寄せる。
どこかで微かだが神気の気配がする。これは……。
「……!あいつ……」
間違いない。光の神気の気配だ。
ふいを突かれて呟かれた言葉に、うまく聞き取れなかったフィアナは小声でどうしたの?と首をかしげる。
「一番端の後ろから二つ目」
それだけを聞いた彼女も彼が言わんとすることを読み取ったのか、軽く目を瞠る。
「光の守護神」
赤い髪をした少年で、顔だけを見れば女に見間違えそうなほどに顔立ちをしている。
しかし驚きはそれだけではなかった。
その生徒をまじまじと見ていたフィアナはふと何か引っかかりを覚えた。
「あれ……」
どこかで見たような。
少女はう〜んと首をかしげ、必死に記憶の糸を手繰る。
「どうしたんだ?」
彼女の様子にいぶかしんだセノトも微かに眉根を寄せる。
「あの光の守護神、どこかで見たことあるなぁって」
しかし肝心な記憶がまだ見つかっていない。
確かに見覚えがあるのだが、どうしても思い出せないのだ。
どこだっただろうか。
首を捻るフィアナにセノトは視線を落とすと、その刹那、ふいに赤い髪をしたその少年がこちらを向いた。
「「………!!」」
不意を突かれ、隠れることもできずに二人の視線は彼のものと交差したまま固まる。



「………?洋輔、どうしたんだ?」
少年の後ろに座っている男子生徒が前の席の友人が廊下をじっと見ていることに気づき、首をかしげて洋輔の視線の先を見るが、特に変わったことはない。
「あそこに人がいた……あれ?」
彼の問いかけに廊下を指差す洋輔は不思議な出来事に首を捻る。
確かに漆黒の長い髪の男と小さな少女が廊下にいたのだが、そこには誰もいなかった。
「気のせいだったのかな」
自分の思い過ごしだったのだろうか。
「寝惚けてんじゃないかー?」
「そんなことないもん」
くすくすと笑ってくる友達に洋輔は頬を膨らませてみせ、もう一度廊下を見る。 しばらくの間じっと見ていたが、人影はもういなくてそれほど重要視はせずに授業に集中する。



「あ、あぶなかったぁ……」
できるだけ気配は断っていたのにまさかこちらに気づくとは思っていなかった。
結局、彼をどこで見たのか思い出せそうだったが、いっきに逆戻りしてしまった。
「誰だったんだろう……」
どうしても気になってしまう。
「とりあえず続き探しに行こう」
今度は慎重に行かなければ、見つかっては全てが水の泡になってしまう。
気持ちを落ち着けたフィアナは廊下の向こうを体ごと向き直り、ゆっくりと進んでいく。
先ほどの教室より二つ進んだ部屋の前に来たとき、二人の研ぎ澄まされた神経に引っかかる気配があった。
「セノト、闇の神気だ」
「そのようだな」
教室の中を見たフィアナの表情が幾分か険しいものになる。
「やっぱりあのひとが守護神だったんだ」
あの少年は間違いなく、昨日会った学生だ。
セノトもフィアナの視線の先を見て軽く目を瞠る。
「似ているな。光の守護神と」
「ほう、そうだね」
彼の言葉に少女は何も考えていない様子で頷いた。
それを横目で一瞥してから、もう一度闇の守護神に視線を戻す。
双子か。
「とりあえずこの学校にいることはわかったんだ。どう話を付ける?」
セノトは視線を教室内に向けたまま尋ねた。
急げば事を仕損じる。彼が学生である以上、この学校には必ず来る。
ここはフィアナの意見を尊重するしかない。
「いきなりゆったらびっくりするかも。……でも、いつゆっても同じだったら早いほうがいいよね。あのひとが帰るときに一回会ってみようと思うんだけど、どうかな?」
いつか知らなければいけないのだから、それを先延ばしにして後悔はしたくない。
フィアナはセノトの翠玉の瞳を見上げて、返答を待つ。
「好きにすればいい。おそらくあの二人は双子だろう。少なくともお前が会うというのなら、俺もあいつと会うことになるしな」
どうせ自分も話さなければいけないこともあるのだから、彼女の判断で賛成だ。
彼の答えにフィアナはわかったとうなずくと、二人は放課後になるまで屋上で待つことにした。



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