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16 : 第十六話




ユアや守護神たちのいる部屋に戻ると、ベッドの上で力なくうなだれているユアが視界に入り、耀香は薄く苦笑を浮かべる。
「お疲れ様、ユア。相当癖の強い精霊なのね」
おそらくあれと同じようなテンションで、毎日中から干渉してきているのだろう。それを想像するとさすがの耀香も遠慮願いたいと思ってしまう。
干渉するしないは精霊の意志でできる。逆に言えば、干渉に関しては主が制止させることができない。
「意思疎通するのにも神気がいるってのに、暇さえあれば出せってうるさいんだ」
特にユアの中から美形な人を発見したときは、かなりうるさいと言う。
「あれさえなければ、頼りになるんだけどな」
「そうね、水は攻撃特化の神気だし。あの子、成りは子どもだけど力はあたしたち以上ね」
肩をすくめる耀香に頷き、ふいに契約した頃の自分を思い出す。
フィアナが人探しのために桜の精霊と契約し、人界に降りたと聞いて突然のことに声も出なかった。
前日まで何の違和感もなく、傍にいたのに。
ユアは半ば苛立ちながら長に精霊の事を聞き、もっとも強いとされる水の精霊に助力を請いにいったのだ。
「あいつの強さは認めるけど、気分屋なところが厄介なんだ」
彼女の気分一つで敵味方見境なく攻撃してくることもたまにあり、それを考えた上でも、ユアは彼女を極力召喚したくないのだった。
綾夜との戦いで受けた傷も完治していないのに、どっと疲れたユアはもう何度目かもわからないため息を吐き出す。
「まぁ、あの子らが帰ってくるまで安静にしてなさいよ」
「どっか行くのか?」
くるりと踵を返して部屋の扉を開ける耀香の背中に、ユアは呼びかける。
「ちょっと気になることがあってね。出かけてくるわ」
肩越しに三人を振り返り、耀香は笑って答える。
「あ、それとあたしがいない間に勝手に抜け出したら承知しないわよ。島崎くん、ちゃんと見張っててね」
島崎はああ、と頷き、好き勝手言われているユアは抗議の声を上げるが笑って受け流される。
「まぁ、そんなに遅くならないわ。ここにあるものは勝手に使ってくれてもかまわないし、好きにしてちょうだい」
そうして最後に行ってきます、と言い残し、耀香は部屋を出て行った。
完全に扉が閉まり、慌しかった空気が嘘のように一瞬にして静まり返る。三人は知らず、張っていた糸が切れてほうと息を吐き出す。
「……大丈夫かな」
窓の外に浮かぶ星を眺めながら、ふいに浩輔が小さく呟いた。
二人の視線が一斉に彼に向き、ユアが安心させるように一言大丈夫だ、と言い切る。
「精霊が二人ついてるし、心配はねぇよ」
「……うん、そうだけど………」
どうも歯切れの悪い浩輔の返事に、ユアは眉間に皺を寄せる。
「まだ心配か?」
「い、いやそういうわけじゃなくて。俺はちゃんとフィアナの役に立ってるのかなって」
気配が苛立ちを帯びていることに、気づいた浩輔が必死に首を横に振り、そんな弱音を吐き出す。 いつも安全な場所に避難して、フィアナたちだけが自分を顧みずに闘っている。
戦場に立ったところで足手まといになるのは目に見えている。でも本当に自分がフィアナの傍にいる意味はあるのだろうか。
昨日でも実際には何もできなかった。ただ守られてるだけで、見ていることしかできなかった。
初めて、彼女と出会った頃と何も変わっていない。
視線を落とし、自信を失くす浩輔の肩をぽんと叩き、ユアは真面目な表情で口を開く。
「そりゃ、お前はただ神気を宿しているだけの弱い人間だ。戦力になるとか、何かができるとは思っちゃいねぇよ」
容赦ない言葉に浩輔は言い返すこともできずに、しゅんと落ち込んでうなだれる。
確かに実戦経験はない。それは当たり前のことで、それをユアたちが期待しているわけではない。
「だいたい貴久も浩輔も、俺たちが来なければ普通の生活をしてたんだし、むしろ守られてるのが普通だと思うな」
力を借りている立場だから、浩輔たち守護神に何があっても傷つけさせたりはしない。たとえ、自分が危なくなったとしても守護神の安全が最優先だ。
「まぁ、それでも力になりたいっていうなら、基本的な戦い方くらいは教えてやるけどな」
ユアはそう言って、冗談混じりににこりと笑う。
「うん、ありがとう。ユア」
浩輔も薄く笑みを浮かべて礼を言う。
「ユア、一つ気になったんだが、守護神の神気はお前たちが使う神呪は使えないのか?」
後輩の不安が軽減されたことに安心した島崎が、ふと気づいたことを尋ねる。
もしも使えることができるのであれば、少しはユアの助けになると思って聞いてみたのだが、ユアは口許に指をあててうーんと考える素振りを見せる。
「俺たちの神気と守護神の神気はそんなに大きい違いはない。過去にも守護神が神呪を使ってたこともあったしな。でも勧められねぇ」
そして険しい表情でそれを反対する。
理由の知らない島崎は首を傾げて、彼の言葉の続きを待った。
「前にも言ったけど、守護神の神気は宿主の寿命を元に発動するんだ。神言でも縮めるのに、その上神呪を使えば二十年も持たなくなる」
ユアたちは極力自分たちに神言を頼まない。それはただでさえ守護神の寿命は短いのに、自分たちの都合でそれ以上縮めさせるわけにはいかないから。
その気持ちを知っている島崎はそれ以上は何も言わなかった。
「そういうことか。まぁ、言われたところで簡単に発動できるわけじゃあなさそうだしな」
そう言って島崎は苦笑を浮かべ、馬鹿なことを聞いて悪かったな、と付け加える。それをユアはゆっくりと首を振って制した。
「そんなことねぇよ。俺たちは私的で動いてるのに、そんなことに貴久の寿命を縮めさせるわけにはいかねぇだろ。神言で十分助かってる」
「そうか、それならよかった」
ユアは島崎の淡い微笑を見返し、改めて思った。絶対に短い人生で終わらせない。
人間の命はファイネルよりも遥かに短い。守護神はそれよりももっともっと短い。現在の守護神の寿命は平均して三十程である。
そんなファイネルにとって瞬き一つほどのとても短い人生を、精一杯生きられるように絶対に守り通してみせる。




第十六話終わり



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