「話、終わったのか?」
大分時間が経ってから書斎に戻った蓮呪の声に気づいた老人は後ろを振り返り、一つ頷く。
「杏癒、すまぬが明日人界に赴き、これらを揃えて欲しいのじゃ」
そう言って彼は少年に小さな白い紙を差し出す。
蓮呪は訝りながら受け取り、その紙面に書かれた字に目を通す。一体何を揃えというのだ。
達筆な文字を読んでいくにつれて、彼の表情が意味がわからないといった様子になっていく。
制服に教科書、筆記用具。そしてその他もろもろ。
「…………なんで?」
彼の疑問ももっともだ。
そこに挙げられているものは紛れもなく学校用具一式。あいつらは一体何をしようとしているのだ。
大いに首を傾げている彼に老人は先ほどのユアとの対話を掻い摘んで説明する。
「フィアナの提案で学校に行くと…………あいつ、あれからそんなことを」
おそらく今朝人界に戻った後にそういう展開になったのだろう。フィアナのことだから考えそうなことだ。
しかし一番驚いたのがセノトだ。彼が学校に行くとは、どういう風の吹き回しだろうか。
蓮呪はふいにくすりと笑った。
まぁ、理由は大方予想がつくけどな。
「で、これを調達してくればいいんだな?」
確認する少年に長はうむと頷く。
わかったと了承する蓮呪に、しかしもう一つ頼まれごとを言われた。
「それでなんじゃが、白界の経費を使うわけにはいかぬからの。明後日よりここに行ってほしい。雨涅」
「はい」
長は先に渡した紙とは別の紙を少年に渡し、傍に控えていた地の精霊を呼ぶ。
頷いた雨涅は彼に紙袋を渡した。
「…………?」
まず渡された紙に視線を落とすと、そこには線が何本か引かれていて、中央辺りに星印が打ってある。
その周りには店の名前や建物などの大まかな位置が示してあるので、これは地図なのだろう。
長の行ってほしい場所というのが、ここであることは見当がつく。
そして理解した蓮呪は次に雨涅から受け取った紙袋の中を覗く。
「………………」
少年はゆっくりと顔を上げ、地の精霊を見返すと彼女はにこりと微笑んだ。
その後詳しい説明を雨涅から聞いた直後、その場には蓮呪の絶叫が響いた。
第十話おわり
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